驚きのウイルスバスター

Iの存在を強調して新しい投資家に働きかけてくれる人でも現われないかぎり、Iとの提携は資金調達に何の役にも立たない解決策は明らかなようだった。 それは新開発表だ。
友人や家族から、その製品を見せてくれとしつこく頼まれることほど、エンジニアの関心を引くものはない友人や家族は、新聞で新製品の記事を目にしたときに、おねだりをはじめるそして、IがGOを支援していることが広く知れわたれば、Iはそう簡単には手を引けなくなるGOを取り上げた新聞記事がたくさんあれば、資金調達はずっとやりやすくなるまず、発表の日取りを決めなければならず、Iに相談すると、Cは社内の広報部にゲタを預けた広報の主要任務は、情報の公表を急ぐことではなく、遅らせることにあったようだ。 そこのスタッフは、両社の関係を公表することは、スケジュール以外に何の問題もないというそして、ディスクドライブの新モデルとか、慈善事業への寄付だとか、いろいろ発表のスケジュールが詰まっているので、七月十八日より早くはできないというずいぶん先の話だ。
しかし、マスコミにきちんと説明する時間がたっぷりあると、前向きに考えることもできた。 Cはまえに、公式発表はジムKが行なうと言っていた。
広報のスタッフはそれを知ると、阻止しようと動きだした。 まえにOKしていたはずのKが突知、都合が悪いと言いだし、発表の席に出ることになった。
「いずれにしても、Kには取材の電話が入るだろう。 」と、Cは慰めに言っていた。
次にぶつかった問題は、プレスリリースの文面だった。 Iは草案づくりに若い広報マンを起用し、という内容だった。
あきれたことに、その男は、草案を書く権限は与えられていたが、それを修正する権限は与えられていなかった。 データ入力マシンで大きくなった会社が、削除キの使用を社員に禁じているとは、なんともおかしな話である「問題があるなら、そちらへうかがって、いっしょに検討してもかまいませんが」と、その広報マンは言ったが、ぼくはCを説得して、こっちが作った草案をべスに仕切り直しすることに成功した。
それでも、若い広報マンは自分の原案に固執し、いくつかのパラグラフを復活させようと躍起になった。 GOが新たに雇一ったマーケティング部長のCブロードベントが広報を担当し、発表をはなやかに演出する方法をP会社と入念につめていた発表にはひと工夫が必要だった。

GOが発表するのは、製品ではなくて、「関係」と「テクノロジー」なので、マスコミがそれほど注目してくれないおそれがあった。 ぼくはCといっしょに、宣伝キャンペーンであちこちを飛び回り、時間の許すかぎり、有力メディアのインタビューに応じた四月中旬のある日、Cが『Pウィーク』を片手にぼくの部屋に飛び込んできた。
これを見てください。 ぼくが見出しに目を通すのも持ちきれない様子だった。
なぜ、そんなにいきりたっているのかは、すぐにわかった。 一面にこう書いであった。
IはGOに多額の出資をし、手書き文字認識ソフトをGOにライセンス供与した。 どちらも、でたらめだすっぱ抜きが得意の『Pウィーク』は、あの広報マンが書いた草案をどこかで手に入れたにちがいないと。
ぼくはその記事を書いた記者に電話をし、なぜ、こちらに確認をとらなかったのか、やんわりと問い詰めた「確認しようとしても、否定されるだけでしょう」と、その女性記者は答えたそんな手間をかけても、時間の無駄だと言わんばかりだった。 Cはかんかんだった。
無理もない正式発表まで、まだ何か月もあるのに、情報が漏れてしまったPを担当する者にとっては、最悪の事態である。 すぐに、緊急対策本部を設置した。

まずやるべきことは、これ以上の漏れを防ぐことだった。 特別な部屋が用意され、ぼくはリストを渡されて缶詰めにされた。
ぼくはCの指示にしたがい、それまでに接触した。 マスコミ関係者にかたっぱしから電話をかけ、引き続き、発表までは報道を控えるよう求めた『Pウィーク』の記事がはなはだ不正確だったことは、不幸中の幸いだった。
午後遅く、その部屋を出て、廊下を歩きながら、ぼくはCに任務終了の報告をした。 「オーケーまあ、こんなところだな。
抑えるべきところは、すべて抑えた大丈夫だろう。 」Cの顔に安堵の色がみえたところが次の日、Cがまた、ぼくの部屋に血相を変えて飛び込んできた。
今度は、敷物を汚した。 犬を打ちすえるように、まるめた新聞を振り回していた「もう泣きたい気持ち」そう言って、まるめた紙をぐいと突き出した。
広げてみると、『ニューヨークタイムズ』と『ウォルストリートジャーナル』だった。 うちに確認をとらずに書いており、しかも、責任逃れのために、「Pウィークが昨日、伝えたところによれば」という前置きをつけていた「この二大新聞が、あんなものに飛びつくとは」ぼくは信じられなかった。
「取材もしないで、よく書けますね。 誰もうちに確認の電話をかけてきませんでした。

契約しているメディアに絶えずニュースを電送しているAP通信のことを言っているのだ。 全米の地方紙は、APから配信されるニュースをもとに記事を書くCの心配は的中した。
次の日、数えきれないほどの地方紙が、これを取り上げた。 しかも、記事を読みやすくするために、『Pウィーク』がニュース源であることに言及していない新聞が多かった。
ぼくたちは頭を抱えてしまった「どうすりゃいいんだ」と言うぼくに、「記者会見でも開いて、何かニュースを提供するほうがいいでしょう」とCは答えた情報漏れへの対応も急を要したが、それ以上に火急の問題だったのが、資金の調達であるコストを削減して、なんとか数か月しのぎ、Iからは金が入ってきたものの、いくらやりくりしても六月末が限度だった。 発表が、ずいぶん先に延びたことに責任を感じていたのか、GOとIの提携を材料に、めぼしい投資家に当たってみようと言ってくれたぼくは、Jに助けを求めた「これまでの投資家に、プロラタで追加出資を頼んでみるが、値段の設定には、やはりリードが必要になる」とJは言うプロラタというのは「前回の出資比率に応じて」という意味だ。
前にも説明したように、新規に放出する株式の値段を決めるには、リードという新しい投資家が必要になる何をすべきかはわかっていた。 ぼくはさっそく、ステートファームのNビンセントに電話をかけた保険会社は、保険加入者から集めた保険料を、保険金の支払い請求があるまで寝かしておくわけではないそれを運用して増やすのだ。
つまり、投資先が必要になるそして、GOとIとの関係をいちばんよく知っているのは、ステートファームなのだ。 実は、新たに資金の調達を考えています。
それで、まず、そちらさんの意向をうかがいたいと思って」「運用部に話してみましょう」Nは即座に答えたステートファームに異色の部署があるとすれば、それは運用部だろうと思っていたウォル街の高層Bにある騒然とした。 トレディングフロアずらりと並んだコンピューター画面の前で、MBAが神経をぴりぴりさせて、金融市場の刻一刻の動きに目を光らしている。
ぼくはそんな光景を思い浮かべたが、実際はそうではなかった。 ぼくはすぐにブルミントンの本社に飛んだが、今回は訪れたフロアも違うし、目的も違った運用部は銀行のようにひっそりと落ちついていたフロアの隅にコンピューターが一台あるだけで、その前には誰も坐っていなかった。

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